TRPGにおける目的・動機(モチベーション)のシステム上の扱いの変遷を整理してみました。
図に載せたのは、その辺の転機になったシステム&現在プレイされてるシステムで、象徴的に、どう継承されてるかというモノだけをピックアップして挙げています(ワシが把握してる範囲で)。
0.背景
・某つぶやきで「目的」「目標」「動機(モチベーション)」が混同されていておかしいことになっていたので、状況整理のため。
・某FEAR系システム式のいわゆる「ハンドアウト」が「動機(モチベーション)」確立のため必要と言われるけれども、一方で、どうしようもなく気持ち悪がっている層がいるという現状がある。その「気持ち悪さ」の解明のため。
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1.概略
図を参照。
TRPG黎明期(CD&D等)の頃は、システムでは特にPCに目的設定されておらず、シナリオで目的が提示されていました。その際、PCの動機付けはどうでも良かった(どうしようもなく破戒的なモノは「混沌」「悪」とか言って避けられたりしましたが)。
TRPG第二世代期には、世界設定(種族や宗教)から、PCの動機付けが大まかに指定されるようになり、一方、ParanoiaなどからPCの目的を多層化することでPvP(PC vs PC)の方向性も示唆された。
で、第三世代以降~現在では、
・動機をGM主導で規定する(ハンドアウトなど)
・公開目的/非公開目的の二重構造でPvPを表現
・目的/動機を選択する
・目的はシナリオ(GM)で決め、動機はPLが決めるという分業の先祖返り
というような、四つくらいの流れがあるかなと。
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2.各論
2-1.黎明期
・目的はシナリオ(GM)が決め、動機はPLが決めるという分業
でした。ギャグとして『動機なんてどうでも良いんでさっさと戦闘させろ』なんていう脳味噌筋肉なPLが揶揄されたりなんかしましたな。
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2-2.Rune Quesut
……というか、グローランサ。
世界観強化によってPCの背景や動機付けが補強される流れで、Rune Quesutでは、カルトによって全PCの行動原理が、きっちり規定されるようになりました(宗派によってはかなり過酷なモノもあり)。
システム(背景世界)によって、PCの動機付けが規定されるようになった端緒で、そのほぼ完成形がRune Quesutと言えるでしょう。
この時点では、基本的に「PLがカルトを選ぶ」ので、
・「動機付けはPLが選択する」
というPL主導の位置づけは黎明期と変わっていませんでした。
一応、ハンドアウト的に運用されることもあって、要するに「このカルトに属したPCを作ってください」という指定が来るようなプレイをされることもありました。
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2-3.Paranoia
Paranoiaでは表向き「ミッションを成功させること」という目的が提示されますが、PCの所属する秘密結社によって妨害工作の指令が来たり、単純に自分が生き残るために他のPCを反逆者として仕立て上げる必要が発生します。
GURPSプリズナー6とか、この方向性のシステムもぼちぼちあったようですが、国民性的に合わなかったのか日本のTRPG界では割と黙殺されて、ノウハウ断絶の憂き目に。最近やっとシノビガミ辺りで復興しましたか。
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2-4.FEAR系
ここで「FEAR系」と言ってるのは、ブレカナ、DXとかの「絶対悪が規定されてて、ラスボスを叩きのめす系統のゲーム」のことを指してます。
まず、システムで「絶対悪が規定されてて、ラスボス叩きのめす」=「目的」が決まってるので、TRPG黎明期とか、PvPの感覚で言えば、それだけでセッションは十分プレイ可能なわけです。
そこに「ハンドアウト」でPCの動機付けまで指定するようになったのが、実に画期的でした(と同時に反発も食らった)。
1)なぜ「気持ち悪い」のか
要するに「動機付け(モチベーション)」をどうするかというのは、PLの領分だったのが、GM側から、いちいち指定されてくるようになったのが、超絶気持ち悪い、ということかと思います。
いや別に、最終的にラスボスを倒す方向でPCの状況をセッティングするのはPLに任せてくれれば良いんで、最終目的と、最終目的達成のために必要な条件だけ提示してくれれば、それ以上はGMは何にもしてくれなくてイイよ、どっちかというと余計なお世話……というような考え方で、その方向性でGMの権限を徹底的に削ってドライにしたのが「Aの魔方陣」かと思います。
2)あえて動機付けをGM側から指定するメリット
とはいうものの、このスタイルが受け入れられてきたのは、それはそれでメリットがあるからです。メリットとしては下記のようなモノがあります。
・セッションの展開が事前に読みやすい
・PCの、割と私的な人間関係や場面がプレイできる
→恋愛チックな場面とか
→ドラマチックになる(エンタメストーリー的に)
・PCの、割とアレ的な人間関係や場面がプレイできる
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2-5.深淵
深淵はRune Questのモデルを引きずっていると思いますが(テキトー)、
・目的/動機付けを、より「私的」なモノも可能にした
・目的/動機付けをシステムで選択可能にした(基本2択)
・選択は、あくまでPL主導
となっています。目的が選択可能なのはシノビガミなどのPvPの方向で、ある程度実現できてますが、
・動機を選択する(=葛藤)
というのを実現した良いシステムが、今のところあんまりなくて、やむを得ず未だに「深淵やるしかねえなあ~」と言って、今でもプレイし続ける要因となっています(個人的に)。
エンタメのストーリーとしては「葛藤」は、話を面白くする上で必須なのですが、TRPGセッションでガチで葛藤を扱うのは難しくて、今後良いシステムが出現することが期待されます。天羅なんか良い線行ってたのですが、天羅万象・零で尻尾巻いて逃げたしな~。「BBT」なんかどうでしょうかね?
でまあ、このシステムでは「動機付けなんて考えられないよ~」という、設定を考えられないPLのサポートとして
・システムで動機付けを提示(二つ以上)
・実際にどれにするか選ぶのはPL
というスタイルになっています。色々厳しい選択のあるシナリオだとPLが、日和って目的をあれこれ組み替えてくるのが面白かったりします(展開が変わって対処は難しめになりますが)。
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2-6.シノビガミ
近年、トラブるエイリアンずからの流れで、PvPスタイルを復興したシステムですね! 図を見るとわかりますが
・「使命/秘密」は、「目的」を規定するだけである。
・動機付けはあくまでPLで考える(PL主導)
ということで、「使命/秘密」が「FEAR式ハンドアウト」と混同されることがありますが
「(機能として)全く別物である!」というところが重要です。
で、シノビガミの「使命/秘密」ではPCの動機付けを規定して来ないので(原則)、「FEAR式ハンドアウト」でPCの動機付けを指定されて気持ち悪い、という層でも「気持ち悪くなくて、受け入れやすい」という特徴があります。
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2-7.Aマホ
上で書きましたが、TRPGの先祖返りでありつつ、
・GM:目的提示
・PL:動機設定
という分業スタイルを突き詰めた成果がこのシステムと言えるかと思います。
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3.まとめというか後書きというか
散々「気持ち悪い」とか書いて申し訳ないですが^^;、
・PCの、より私的な話を語ろうとする
というのはTRPGの発展として必然の流れだったと思います。で、そのGM主導なアプローチとして「FEAR式ハンドアウト」が存在した。ただまあ
「PCってPLの領分なのに、いちいち動機付けをGM側から指定されるのは気持ち悪い、という嫌悪感がある」
というのは事実なので(いつも内輪のメンツばかりで遊んでると、慣れてしまって忘れがちになるかと思いますが)、より気持ち良くプレイできるよう、摺り合わせを出来ると良いかなあと思います。
また、システムによって、目的/動機の領分が違うので、システムの特性を理解すると、
・「摺り合わせのためにどこで時間を費やすべきか」
が、はっきりして時間配分もやりやすくなるかと。
そんなところで。