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「風立ちぬ」の酷いなと感じたところ:(・_・)

 絶賛、批難、色々感想が出ておりますが、ワシがアレを観て「酷い」なと感じたところを書いてみます。

・参考:「風立ちぬ」感想(毒)
 http://togetter.com/li/543288

※ネガティブ&ネタバレ注意!!!














































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1)ヒロインが男性にとって都合の良い女性像でリアリティがなく、しかも美しくなくなったらポイ捨て
 「リアリティがない」ということについては、以前のファンタジックな世界観の作品であれば、リアリティのないキャラ像でも良かったと思います(作品内リアル)。しかし、今回はわりとリアルな設定の話ですので、そこでこういうリアリティのない描かれ方をすると、かなり違和感がある。
 また、実際どうなのかという話ですが、昔のフィクションではああいう一面的な女性の描き方を良くされて、現実でもそういう造られた女性像を女性が演じてた部分は多分にあったかなーという感じなのですが、どうなんすかね。

 加えて、


・「美しいところだけ好きな人に見てもらったのね」
・死んだはずのヒロインが主人公の白昼夢に現れて何か知らんけど主人公を赦してくれるっぽい


という辺りも、


・いやいや、美しいところだけ描いて、あとは無視かよ
・赦してくれるって、自分で都合の良い夢見て赦してもらったつもりになってるだけだろう?


という感じで、終始自己満足である。
 逆に言うと、


・そういう女性に対する偏見や酷い扱いを、偽善だと感じさせるために、敢えて狙ってヒロインを嘘っぽく描いている


ということであれば、それは見事に機能していて、そういう嗜虐的視点は、夢に現れる設計家カプローニの発言に見受けられますが、どうなんでしょう。

 あと余談ですが、個人的な感想としては、あのヒロイン像って、未来少年コナンの「ラナ」の焼き直しで、かつ婚儀の時の描き方は、細田守監督の「サマー・ウォーズ」のあからさまなパクリで、そこまで落ちぶれたかよ、と感じてしまうのですが、どうだろう(個人の感想です)。

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2)戦禍の描かないさ加減
 震災や、戦渦の中で色々悲惨がありましたし、主人公が造った飛行機によって死んだ人間が多数居るわけで、そこら辺の高揚や、酷さを全く描かない、当然見えていただろうに平然と無視されている辺りも、

・「美しいところだけ好きな人に見てもらったのね」

と、同じスタンスになっており、華麗にスルーされております。
華麗にスルーするだけならまだ良いんですけど、

・泥まみれの虎 宮崎駿の妄想ノート
 http://www.amazon.co.jp/dp/4499227909/ref=cm_sw_r_tw_dp_UJBdsb0EJ6Q0S

という宮崎駿が書いた本がありまして、p.83で、

>有名な急降下爆撃機パイロットのルデルの戦記は、あまり好きじゃないんです。なんか、彼の思想性みたいなものが前面に出てきてる部分があって。とくに自分たちが負けたときに、損害を過小に書くというか、サラッと書いてる。《その数週間のあいだにかつてないほどの戦友を失った》とか、その1行だけなんだよね(笑)。そのとき何が起こったかを書いてないんですよ。ヤなことは書かない。《退屈な退却の日々は終わった》とかね。「ちょっと待てよ、その何ヶ月に何があったんだ!」っていう、それを書かないんですよ彼は(苦笑)。

という記述で、宮崎駿が急降下爆撃機パイロットのルデルの批判をしてるんですけど、

まったく同じ『キタナイ』手口を自分自身でやってんじゃねえ!!!


という辺りがツッコミどころかなあと。

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3)タバコの描写について
 いやまあ、昔は現実でもフィクションでもパカパカ吸ってて、それがカッコイイと思われてたので特に気にならなかったのですが。

 この映画を観に来る子供にそんなことはわかるわけもないし、また、子供の親の世代でも「吸わないのが良いこと」という思想が広まった頃ですので、注釈くらいは欲しいかなと。

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4)継承者としての「子供」の不在
 主人公がエゴイスティックで前時代的思想の持ち主だったとしても、子供や自分の仕事を引き継ぐ人間が現れて、現代的な視点で批判されるなら最低限バランスは取れると思うんですけど、そういう批判的視点は、ほぼ皆無な状況になってます。
 例えば「ゲド戦記」と対比するなら、

・「ゲド戦記」
 親子の対立あり。親は殺される(酷)。

・「風立ちぬ」
 子供の存在自体が完全抹消(そもそも居ない)。

て感じになっており、宮崎家の家族関係が心配されるわけですが。

 例えば、主人公がヒロインと結婚するという話が出たところで、「子供はどうするの?」という話が最低限確実にどこかしら出るはずと思うんですよ。当時ならなおさら。しかしそういうことをとがめる人物は一人もおらず、主人公の周囲のキャラクターも、ヤなことには一切言及しない、都合の良いキャラクターばかりになっている。

・漫画「風立ちぬ 妄想カムバック」
 http://sakurasakujapan.web.fc2.com/main03/moviekazetachinu/moviekazetachinucomic.html

 こちらを見ると多少書いてあるんですが、尺の関係でカットか?

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5)要するにこの作品で主張されてると思われる事柄
 ぶっちゃけまとめるとこんな感じでしょうか(笑)。

<1>女性は綺麗なところだけ見てれば良い。そうでなくなったらポイ捨てOK。罪悪感があっても、自分の心の中で許してくれた気分になれれば問題なし。死人に口なし。

<2>美しいものを追い求めて結果さえ出せば許される。それによって何千、何万人の犠牲者が出たとしても自分には関係ない。許される。OK。死人に口なし。

<3>タバコは日常だった。

<4>子供の存在は徹頭徹尾ガン無視OK。継ぐ者はいないので、可能な限り長生きしないと!

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6)対象年齢の問題
 ……まああの、インモラルな内容を映画で描くことは、表現の自由という観点では、全然問題ないと思うのですが、「ジブリアニメ」というだけで、


・子供が観るんだ


っていう観点は今後要るんじゃないかなーというのはあります。

ジブリ・鈴木敏夫が語る「宮崎駿監督最新作品・風立ちぬ制作秘話」
 http://numbers2007.blog123.fc2.com/blog-entry-2445.html

>鈴木敏夫「宮さんってね、『アニメーションはこうあるべきだ』って考えがあるんですよ。つまりは、『絵で描いた映画っていうのは、原則として子供が観るものである』って。大人のものにしちゃいけない、だからそれは企画として間違っているっていうんですよ」

 ……という発言があって、実際この作品中でも子供向けに描こうとしてるのか、大人向けに描こうとしてるのか、微妙に揺れてたりなんかしますけど(エンディングは相変わらず、ひらがなで「おわり」(子供向け)だし)。

 この辺の問題については、上記記事で、

>渋谷陽一「『風立ちぬ』は、大人向けな映画になってるんですか?それとも大人も子供も楽しめる?」
>鈴木敏夫「大人ですね(笑)」
>渋谷陽一「はっはっはっ(笑)大丈夫ですか?興行的に」
>鈴木敏夫「興行?興行はだって東宝がやることだから(笑)」

と、
スタジオジブリとしては東宝に丸投げして、
東宝は映倫に丸投げして、
映倫は「G判定(どなたでもご覧になれます)」して
http://www.eirin.jp/list/index.php?title=%C9%F7%CE%A9%A4%C1%A4%CC&eirin_no=&s_year=&s_month=&e_year=&e_month=&x=47&y=15
いつもどおり、子供も観る映画館で公開されるという状況になってるわけです。
個人的感覚としてはPG12以上は要るんじゃねえのって思うんですけど。

・PG-12
 http://d.hatena.ne.jp/keyword/PG-12

>12歳未満(小学生以下)の鑑賞には不適切な表現が含まれるものには、成人保護者の同伴が適当。性・暴力・残酷・麻薬描写・ホラー映画・小学生が真似をする可能性のある映画が審査の対象になる。

の、「性・残酷・麻薬描写・小学生が真似をする可能性のある映画」が引っかかりそうかにゃ?

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まとめ
 ……そんな感じに、この作品では「当然見えているだろうに描かれていないモノ」という観点で見ると、実にエゲツナイ作品だと思います(笑)。

 今後、こういう傾向で、かつ、大人向け作品が作られるのでしたら、大人向けとしてきちんと手続きを踏んで公開されるなら良いと思うんですけどね。(それはそれで)



そんなところで。
by namizusi | 2013-08-16 15:33 | ストーリーメディア


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