2005年 12月 03日 ( 1 )

あらしによるに

 あらしのよるに(絵本版)
 あらしのよるに(映画版)

 絵本版の方を見終えました。映画版は12/10より放映予定。絵本の方は総計200万部も売れたそうで、漫画ならともかく、絵本でこんなに売れるというのはとんでもないと言っていいでしょう。

 で、読んだ感想ですが、何ていうんでしょう。熱い涙が抑えようもなく溢れ出し、嗚咽を漏らしながら読み続ける、なんて体験は何年ぶりでしょうか?僕にとって一生残る作品が一つ増えました。

 以下、気になったポイントなど。

1.狼と山羊が友情を深めるという設定
 この設定を聞いたとき、あなたならどう思うでしょう?

 (自称)ストーリー愛好家、プロット愛好家の僕としては、このプロットを聞いただけで

うは!やべー!すごすぎる!

と叫んでしまいます。いや、最初のこの話を知ったのはコンビニの映画のポスターを見たときだったのでさすがに抑えましたが(^^;。

 さて、この設定のポイントは2つあります。

<1>社会的にこの関係は認められないこと
<2>生理的にいっしょに生きていくだけで支障があって大変である

以上2点。このジレンマというのは物語上の“永遠のテーマ”のひとつで昔からあるプロットです。代表格としては「ロミオとジュリエット」。この「ロミオとジュリエット」のモチーフを借りた作品はそれこそ無数にあります。

 この「あらしのよるに」と「ロミオとジュリエット」の違いというのは、ポイントの<2>の方。「ロミオとジュリエット」は結局“社会的に認められない”というジレンマがあっただけで、実際の話は不幸な誤解から悲劇となるのですが、まあクールに分析するなら「じゃあ、駆け落ちしてどっか知らないところで暮らしてけばいいじゃん。帰れないのは悲しいけど」となりますが、ところが<2>の「生理的にいっしょに生きていくだけで支障があって大変である」という要素が、安易な、逃げればいいじゃんという解決策すら容易ならざるものに変貌させています。

 んで、そういう話を今の社会情勢をかんがみてやるなら

・アラブとユダヤ人の恋の話
・相手がエイズ患者である

とかいうシチュエーションがわりとホットかなあと思うのですが、ただこういうリアルな情勢を持ち出すと話が生々しくなり、時代が変われば事情がわからなくなって理解不能になるし、リアルであるが故の制約にがんじがらめに縛られてストーリーがわかりにくく難解になってしまったりします。

 しかし「あらしのよるに」は“狼と山羊”という、老若男女誰でも理解可能な形でこの社会的ジレンマ、生理的ジレンマを永遠普遍的なモチーフとして完成させているのです。この物語は、読み手が人間でなくならない限り、永遠に理解されるでしょう。

 特に「<2>生理的にいっしょに生きていくだけで支障があって大変である」の部分をうまく描いた作品というのはなかなかなくて、伝記ものとかSFでぼちぼちあったくらいですかね。

 こういう風にあるモチーフを誰にでも理解できる象徴として抽象化して、現実にあるような問題を浮き彫りにすることができるのが、メルヘン/童話/ファンタジーという表現手法の最大の魅力であると思います。

 あとほかにこういうようなジレンマを扱った作品など上げておきますかのう。

ロミオとジュリエット
愛は静けさの中に
ウェスト・サイド物語
第5惑星

宇宙船サジタリウスにもそんなのあったし火の鳥の飛鳥編もそうですのう。吸血鬼ネタもあるか。

2.アニメチックな演出方法
 絵本というと独自のリズムと世界観を持ってることが多いのですが、この作品は今風に割とアニメチックなビジュアルに訴える演出をしています。まあ~今の時流というか、書いた人がそういうビジュアル畑の人だったようなのでその影響かもしれませんが。僕が見るとちょち安直だな~とは思うのですが、まあ、読んだだけでイメージしやすくわかりやすいというのはありますのう。

3.シーン/カットの切り替わり
 この作品ではシーン/カットの切り替わりに非常に気を使っています。まず、1つのカットが必ず見開き2ページに収められていて、それを見ただけで何がどうなったか理解できるようになっている。加えて2ページおきにイラストがカラーのページとモノクロのページが来る。カラーのページはビジュアルに見える視覚的情景が描かれ、モノクロのページは登場人物の内面の動きが描かれる。そして、それぞれのカットの切れ目は「***がおきた!(実際どうなったんだろう?)」というところで必ずピシッと切り、次の見開きで「ああ、なんだ、そうだったのか」とわかってほっとするような展開を終始一貫統一して描いています。

 この辺のカットの切り方は数年前からTVで始まった「ここからが本題です~」と期待させたところでCMを入れて、CMのあとに解決編をやるという手法と同じですな。その辺は、「絵本」というのは子供に読んで聞かせるという読まれ方を想定されるので、読んで聞かせるときに、期待させながら話を区切り、ページをめくって期待する相手に続きを話す、という風に読まれるのを明確に想定していると思います。

 蛇足ですが、この辺の話法を明確に意識した書き方というのは、TRPGでマスタリングする際にも非常に参考になると思います。どこで話を区切れば相手を期待にわくわくさせることができるか?その後どう落ちをつければいいか?落ちを言うまでの「間」はどれくらいあければいいか?ただ、この絵本を書かれたとおりに、演出を意識して声を出して読んでみる(まあ頭の中で読んだつもり、でもいいですが)、それだけでうまい語り口というものを身に付けるいいテキストになると思います。気になった人はやってみましょう。

4.ビジュアル
 絵本の絵は非常に独特でいい味を出していてお勧めです。個人的にはかなり好きです。狼の絵なんかは獣性が滲み出してて腹黒い感じがよくわかります。良い。最後の回想シーンもよくイメージとして描かれていてすごいです。
 が、やっぱり最後の回想シーンは映像でビジュアルに見たいなあというのはあって、それを見るためだけにも映画もいってみたいなと思います。


まだ書くことは尽きないが、そろそろ時間がやばいのでこれにて。
んじゃ
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by namizusi | 2005-12-03 14:40 | ストーリーメディア