ハンドアウトは一人分で十分である



 「オブジェクト指向シナリオ」論で「ハンドアウトは素晴らしい」的な礼讃文を書いたが、正直「現状の」一般的ハンドアウトというのはオブジェクト指向的に言うとまったく非効率で行けてないこと甚だしいので、もっと効率的に「ハンドアウト」をオブジェクト指向的に活用する方法を示す。以下に「ハンドアウト」と呼ばれるもののクラスの継承関係を図示する。
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1.TRPGの発展とハンドアウトの発展
 さて、これらの「ハンドアウト」の継承関係をTRPGのプレイスタイルの発展に鑑みて分類すると、まず「1.パーティー制スタイル」と書いたものは、PCはパーティーという単位で行動し、パーティー全体に対して目的設定をするというTRPG黎明期のスタイルである。PC個別に設定するわけではなくて全体に対して「今回はこういう目的を持ってセッションをします」と宣言するのでわざわざハンドアウトの用の個別資料を作るまでもなくシナリオの冒頭に「プレイヤー公開情報」というのを1章設けてそれを読み上げれば十分だったのである。
 次に「2.ストーリー志向スタイル(過渡期)」、TRPGでただダンジョンに潜って戦闘するだけよりもシティーアドベンチャーでNPCとかと関わって遊んだり、そういう関わりの中で「お話」的展開を「フレーバーとして」導入し始めた時期がある。TRPGマガジンでそういうドラマチックな“燃え”演出をするスタイルがリプレイで紹介されて、それをシステムの形で明記するようになったのが「熱血専用」。「番長学園」もその辺の影響を多分に受けているであろうか。
 最後の「3.個別導入スタイル」が昨今のいわゆる「ハンドアウト」。各PC個別に設定を作るやり方で、そもそもこういう個別設定を事前に告知してそれに合わせたキャラを作成し、プレイするというやり方が最も合っているのは「GURPS」だと思うのだが(僕の地元では僕自身がハンドアウトを使うようになった以外で他の人が使うのを見たのは「GURPS」が最初である)、GURPSではシナリオでハンドアウトを指定してキャラを作らせた方がセッションをプレイする上で莫大な時間節約になり素晴らしいと思う一方、どうしてもそういう制約なしで自分の好きなキャラクターを作りたいという病巣プレイヤーが巣くっているせいでいまいち浸透していないという現実がある。まあ「好きなキャラクターをルールに則って何でも作れる」というのがGURPSの売りであるので、奴らの言い分ももっともではあるとは思う。

 さて、TRPGにおける「ハンドアウト」というのは上記のような発展を遂げてきたのだが、現状よく使われる「3.個別導入スタイル」が本当にオブジェクト指向的に良いのかどうか検討してみる。以下にメリット・デメリットをあげる。

<メリット>
 ・各PC個別の対応をあらかじめ想定して細部まで作り込むことが出来る
 ・PLが脳みそを使わずに考えなくても与えられたものから選んでやるだけでそれなりになる

<デメリット>
 ・たった1シナリオなのに4人分ものエピソードを考えるのは面倒なこと甚だしい
 ・PCの設定の制限が増え、好きなキャラクターを自由に作れない

さて、これを分析するとメリットの部分というのは基本的に「初心者向けメリット」である。要するに初めてそのシステムをプレイするGM/PLは感覚を掴むために確かにこういうメリットが欲しいだろう。しかし、ある程度慣れてきたGM/PLに対してここまで懇切丁寧にサポートする必要があるのか?疑問である。僕に言わせてもらうなら

・たかだか1シナリオに4人分もの手間暇かけるなんて非効率も甚だしい。やってられない。
・PCの立ち位置の振り分けなんてパーティー制のクラスの振り分けと変わらんので慣れれば言われなくても自分で十分できる。ていうか、戦闘用のPCの役割分担の振り分けはPLに任せるというのが普通なのに、物語上の役割分担もPLに任せないのはいったいどういうわけであろうか?PLのそういう物語に対する役割分担に関するストーリーセンスとなめとんのか?

てなもんである。ちなみに本当に「物語上の役割分担」というのをPLが理解可能であるかについてであるが、以下の質問に1個でもYESと答えられるなら可能である。

・サザエさんを見たことがありますか?サザエさん・かつお・さざえ・たらちゃん…等の物語上の役割分担を理解できますか?
・ドラえもんを見たことがありますか?のび太・ドラえもん・しずかちゃん・ジャイアン・スネ夫の物語上の役割分担を理解できますか?
・水戸黄門を見たことはありますか?水戸黄門・角さん・助さん・うっかり八兵衛・風車の矢七…等の役割分担を理解できますか?
・子供向け戦隊ものを見たことがありますか?レッド・ブルー・グリーン・イエロー・ピンク・ブラック…等の物語上の役割分担を理解できますか?
・ちびまる子ちゃんを見たことがありますか?…以下略

 要するにこれらの役割分担の感覚は、TV等をまったく見ないという環境でない限り、日本人であればせいぜい小学生になる頃にはすでに刷り込まれている。日本人じゃなくても、みんなが見ている「ストーリー」というのが変わるだけで基本的な組み立ては変わらないものを刷り込まれている。そういう感覚を信じずに毎回毎回馬鹿の一つ覚えのペガサス流星拳のように個別の設定を懇切丁寧に考えて与えて守らせるやり方というのは、僕の感覚から言うと

・PLの物語感覚は幼稚園児以下である

と見なしているかのように思える。思えないかね?w

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2.ポリモーフィズムの適用
 …という私怨はさておきw、単純にオブジェクト指向的に考えると「ハンドアウト」というものは

・「目的設定」という統一的抽象的インタフェースがすでに必ず存在している。パーティー制でも非パーティー制でもPCが協力し合う/対立するという差異は存在するが、そもそもPCたちが関わり合っていくことになるのは大枠でPCたちが共通の目的を持っているからである。
・大枠は同じであるがPCの立ち位置によって振る舞いが変わる(PC1~4に示されるとおり)

という構造になっている。さて、こういう

・「大枠では同じ振る舞いをする」
・「具体的な振る舞いは個別に異なる」

という状況は以前にも見たことがないだろうか?そう、「ポリモーフィズム」である。こういう処理を効率的に分担を明確にし、独立性を高めるのが「ポリモーフィズム」である。まさに、「ハンドアウト」こそポリモーフィズムを適用するのにうってつけであると言っていい。

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3.ポリモーフィズム的ハンドアウト
 さて、ハンドアウトの方式にポリモーフィズムを適用する場合、以下のようになる

<1>ハンドアウトは1個だけ用意する。ハンドアウトには大まかなシナリオ上の目的&進行のみ明記する
<2>「シナリオ上の目的」へのアプローチ方法、立ち位置の振り分けはPLが自分で考える

このスタイルのメリット・デメリットも以下に示そう。

<メリット>
 ・1シナリオで1人分のエピソード(の大枠)を考えるだけでいい。手間が4分の1になる。
 ・PCの設定の制限が減り、好きなキャラクターを自由に作れる
 ・PCが増えても考えるべき設定が増えないのでPLが何人でも対応できる

<デメリット>
 ・各PCへの対応を細部まで作り込むことは出来ないのでアドリブ対処する必要がある
 ・PLが脳みそを使ってPCの立ち居地や振る舞いの細部を考える必要がある

見てわかるとおり、メリットデメリットが逆転する。しかし「デメリット」に書かれている部分は“TRPG中級者”なら普通に自然にやることに見えないかい?w

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4.具体例
 概念だけ書いてもわかりにくいと思うのでシナリオ「化神」の実例を示そう。
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図のようにハンドアウトは1つだけで、各PC個別の設定はすべてPLが考える。こうすることでGMは

・仲間になるシチュエーション
・目的のために代償を払わせるシチュエーション
・目的のために仲間を殺すシチュエーション

をシナリオで作るだけでいい。「仲間」はPCしかいないのでPLが考えればいいし「代償」もPC個別設定なのでPLが考えればいい。「シチュエーション」も、大枠で「こういうシチュエーションがあるよ」と考えればいいだけで具体的な舞台はPLが考えてもいいね。

 以上の手法を用いることで個別導入群像シナリオも実に効率的に楽にゲーム的に設計することができるのである。
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by namizusi | 2005-01-04 15:06 | TRPG


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