「ラビットホール・ドロップス(以下RHD)」というシステムからわかる、TRPGにおける非戦闘的問題解決技法について解説します。
RHDというシステムは、いかにして問題解決するか(できればコミュニケーションしつつ、非戦闘的手段で)、というのがメインのテーマとなっており、それが汎用的な、TRPGにおける非戦闘的問題解決技法として使えます。ひょっとすると、TRPG以外の現実における問題解決のシミュレーションとしても使えるかも知れません。現実の日本では、
・戦って敵を倒して解決
な~んて事態は滅多にありませんから(笑)、現実にどんな風に問題解決した、というノウハウがこのシステムでは使えますし、逆に、このシステムで使えた手法が現実にも使えるかも知れません(自己責任で)。
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1.「ポイント積上方式」による非戦闘的問題解決モデルは、一般的非戦闘的問題解決モデルとして間違っている
TRPGにおける非戦闘的問題解決方法としては、各人のアクションを評価して、ポイントを積上げていくことで問題解決に至るというモデルが割と一般的にシステムに組み込まれるようになりました。
これはどういうモデルかと言うと、例えばPCたちがNPCを説得する課題があった場合に
1)PCたちがポイントを10ポイント稼いだら、問題解決とする
2)PC-Aは、NPCの好みのお土産を持参して懐柔した
→ポイント+2
3)PC-Bは、素晴らしい弁舌で、NPCが説得に応じたらどんなに良いことが起こるかをつまびらかに説明した
→ポイント+3
4)PC-Cは、NPCが説得に応じるにあたって気がかりがあったのを解消した(例えばNPCの親しい人が、敵に人質に取られていたのを助け出した、とか)
→ポイント+5
5)10ポイントたまったので問題解決成功!
……というような処理で問題解決できたと決定するやり方です。
昨今のTRPGシステムでは、
「作業判定(深淵)」
「TRS(ガンドッグ)」
「Aマホの判定方式(Aの魔方陣)」
「フォーカスシステム(ポリフォニカ)」
「シナリオフラグ(シナリオクラフト)」
「技能チャレンジ(D&D4th)」
「リソース(マウスガード)」
……などなどなどの名称でそれぞれ実装されてますし、「シルバーレイン」「ファイヤード!」「霊障都市捜査ファイル」「サタスペ」等の、より新しい概念を導入したシステムでは、単純にポイントを積上げるだけでなく、システム的に様々な彩りが付与できるようになっています。
この方式のメリットは
・リソースを削りきったら成功と見なす……要するに戦闘ルールにおけるHPの削り合いと同様の処理で解決できる
・PC同士が協力し合って問題解決してるように見える
・アイデアを出し合うのが楽しい
・問題解決するまでに、一定のリソース消費(時間等)を計算しやすい
というところにあります。
一方で、デメリットもあります。
・知的楽しみがない
問題解決するために、与えられた情報/状況を利用して、パズルを解くように問題解決する、という楽しみは喪失しました。
・わざわざポイント積上げて解決する問題は現実には少ない
現実の問題は、適切なタイミングで適切なアクションができれば一発で解決するものがほとんどである。「使う機会が少ない」「使いすぎると現実感が乏しくなる」
……これは、個人的にアインシュタインの「特殊相対性理論」「一般相対性理論」の関係に似ていると考えます。
・「特殊相対性理論」
光速にまつわる特殊な物理的挙動に関する理論。非常にエレガントで面白いけれども、
現実にこんな事態になることは滅多にない。
・「一般相対性理論」
加速度と重力は同じものだ、とかの理論。比較的地味だけれども、
現実によく体験する事象を説明してくれる
今回の「非戦闘的問題解決技法」としては
・「ポイント積上方式」
努力して(修行して)問題解決するモデル。主人公が努力して修行ばっかりしてる話なんてのはほとんどなくて、1個の話で修行する場面はせいぜい1個くらいしかないでしょう。
レアケース。
・「発想力方式」
基本的に、適切なタイミングで適切なアクションを行えば1発で問題解決できる。発想力を問われる。
1個の話で、何度も何度もそういう状況に繰り返し遭遇する。
……という感じになります。「ポイント積上げ方式」は、世の中の1割くらいの非戦闘的問題解決を解消してくれます。しかし、残りの9割は、適切なタイミングで適切なアクションを行えば1発で問題解決できるのです。「ポイント積上げ方式」は、多くの場合まだるっこしくてやってられないし、現実の実感に沿っていません。
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2.「発想力方式」による非戦闘的問題解決方式の特徴
……というわけで、「発想力方式」による問題解決が現実の問題解決の9割を占めると考えております。「発想力方式」の特徴を以下に列挙します。
・適切なタイミングで適切なアクションを行えば1発で問題解決できる
・運が良ければ1発で問題解決できる
・間違ったアクションをした場合には、物事は進展しない
・1発で問題解決する方法を見いだすために「情報」が必要
この方式のメリットは下記になりましょうか。
・現実の非戦闘的問題解決の感覚に即している(リアル?)
・PLのアイデア/幸運で、一発クリアできると、とても気持ちが良い
・1個1個課題が軽めにサクサク入れられるので、少ない労力で彩りのあるセッションができる
・あるいは、1~3個のイベントだけ抽出して超短時間セッションをすることも可能
デメリットもあります。
・一発クリアされてしまうときと、悩むときで、時間消費の差が激しい
→課題数を増やすことで、期待値としての消費時間は一定に揃ってはくる。
・要するに「脳内当てゲー」なので、煮詰まると途方に暮れる
→この問題に対する回答がRHDで提示されています。
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3.「発想力方式」による非戦闘的問題解決手法の分類
RHDのPC(ドロップス)の特殊能力の分類=非戦闘的問題解決方式の分類と捉えて、下記に分類します。ちょうど、先ごろ出たサプリメント「シナリオブック」の追加PCの分析も加えましょうかね(更新が遅くなってすまないw)。
・騎士
1)戦わない(味方を守る)
2)力を鼓舞する
騎士で、戦って敵を倒すのはRHDでは非常に効率の悪い問題解決手法だという話を以前書きました。騎士のRHDにおける真価は、その有り余るHPと防御力にものを言わせて
・敢えて戦わない
という問題解決手法を、選択の一つとして提示する余裕があるところにあります。
世の中にはどんなに、けんかしちゃ駄目とか、暴力はやめようと言ったところで、敵(モンスター)が現れると考えなしに殺戮に走る人間は後を絶ちません。TRPGをやっててもそんなPLばっかりですよね!(笑)
しかしそこで、いつも通り考えなしにぶん殴ったのに、反撃してこない相手がいたとしましょう。それは、いつもいつも敵を見たら暴力に訴えるしかできなかった相手に、それが良くない行いだったと考えを改めさせる良いきっかけになり得ます。
現実でも、「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」というキリスト教の有名な教えがあります。マハトマ・ガンジーという偉人は、非暴力によってインドを西欧の圧政から独立させることに成功しました。──「非暴力」というのは、宗教の教えの一つとして長く語り継がれ、現実に一つの国の復興を成し遂げた、実に由緒正しい、実績のある、非戦闘敵問題解決手法の一つなのです。そして、それを体現するのがRHDの一番最初に出てくる「騎士」になるというわけです。
力を鼓舞する……は、あんな強そうなやつには勝てないから戦うのはやめようとか、純粋に強いということに心酔する人物を味方にすることができます。
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・旅芸人
3)名人芸
4)話を聞く
「名人芸」は騎士の力を鼓舞するに近いです。素晴らしい技によって人を味方にできるかも知れませんし、直接的に、その技で問題解決できるかも知れません。
「話を聞く」は、とにかく悩みでも何でも話をするだけで気分が晴れることがあります(現実にも、カウンセリングとか、キリスト教の「告解」とかもあります。同じ問題解決手法です)。直接問題解決しなくても、話を聞いて得た情報は実際に問題を解決する足がかりとなり得ます。
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・王子/王女
5)はげます
6)お願いする
心情的問題であれば「はげます」ことで、気分を奮い立たせて問題解決することがあります。
「お願いする」自分で何ともならない問題は、出来る人にやってもらえば良いのです。気持ち良く問題解決していただくためにも技術が要ります。
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・商人
7)物持ち
8)取引
「物持ち」今は役に立たないものでも、いつかどこかで役に立つことがあるかも知れません。たくさんのものを持っていれば、その可能性は広がります。
「取引」ものを持っていれば、それを出汁にして、交換条件で目的を達成できるかも知れません。
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・魔法使い
9)魔法
10)師匠
「魔法」ですごいことができれば、それをうまく生かして様々な問題を解決できるでしょう。
「師匠」知識と経験のある人物に教えを請えば、良い解決案を得られるかも知れません。
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・カエル
11)小さい
12)魔女の使途と話ができる
「小さい」小さくて隠れる力があることで、秘密の情報が得られたり普通の人が入れないようなところに入れて問題解決するのは、おとぎ話の基本です。
「魔女の使途と話ができる」旅芸人の「話を聞く」と同じですが、とにかく相手と話ができれば問題解決の糸口はつかめる。
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以下は「シナリオブック」のドロップスです。
・剣士
13)沈黙の言葉
14)一刀両断
「沈黙の言葉」たとえ会話ができなくても、相手の真意を察すれば、それで問題解決に繋がる可能性があります。相手が「問題ありません」と言っていても、言外の言葉で助けて、と言っているかも知れません。
「一刀両断」ルパン三世の五右衛門参照。
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・怪盗
15)変装
16)幸運
「変装」誰かそっくりに化ける力で問題解決するエピソードは巷に溢れています。
「幸運」運が良ければ、どんな問題も解決可能。
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・予言者
17)予言
18)癒やし
「予言」未来のことが事前にわかれば、問題に対処するのも容易になります。
「癒やし」傷を癒やすことができれば、傷ついたものを助けることができます。
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・猫
19)ぬくもり
20)魔女の使途と話ができる
「ぬくもり」精神的に癒やされれば、それで問題解決できるかも知れないし、問題に立ち向かう意思を奮い立たせることができるかも知れません。
「魔女の使途と話ができる」カエルの能力と同じ。
……という具合に、適材適所うまく使えば一発で問題解決するための手法が20個(19個)、RHDでは提示されているというわけです。
今回はここまで。
次回は、上記の問題解決能力を使って、実際のセッションでどんな風に問題解決されていくかという「発想方式による、非戦闘敵問題解決モデル」について解説したいと思います。
んじゃま~