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ゲド戦記:(・_・)

ゲド戦記

 観ました。

 素晴らしい背景、世界観をかもし出す事物の数々、魅力的なキャラクター、難解だが深みのあるストーリー、そして心にしみる音楽。

世界最高クラスの素材をこれだけ結集しながら、どうやったらこれだけつまらない映画を創れるのか(涙)!

 まあ、そんな感じでした。^^;

 素材的にはどれもこれも素晴らしいのでTRPGerとしては非常に参考になって「自分ならこれはこう使い回すなあ」と、刺激されるところの多い良い映画素材でしたか(“作品”とは言いづらいレベルのようなうーむ)。



<以下ネタばれ>

 世間の評判を見ると、声優が下手だとか話が説教くさいせりふばっかりで難解でつまらないとか、ちょっとグロくて子供に安心して見せられないとか、言われてますがその辺は、僕的には許容範囲でしたかね。以前からのジブリ作品でも目立たないところでそういう部分はありましたし。

 個人的に思ったこの作品の最大の問題は

『編集』が全然なっていない

というところだと思います。『編集』というのは映像作品関連用語で、

・どういう順番でシーンをつなげるか
 →視聴者の興味を引く情報の出し方の順番というものがある

・それぞれのシーンの長さをどうするか
 →見るテンポに直結する

というような部分の構成を考える仕事/作業のことですな。正直なところこのゲド戦記は

・時系列順にシーンをメリハリも何もなく等間隔に順番に並べただけ

という風に見えます。製作者が面白さや視聴者との対話を無視して理解してもらうためだけにだらだらと並べて見せてくれてるだけ。そんな感じですか。

 映画とかの非インタラクティブなストーリーメディアというのは製作者が一方的に見せたいものを垂れ流すのが基本なんですけど、実際は視聴者の興味を持続するために擬似的に対話を行ってるんですよね。1人落語で観客と実際に対話してるわけじゃないけれども、あたかも観客と対話してるかのごとくに話を繰り出していく感じと言ったら良いでしょうか?うーむ。

 例えば冒頭の主人公が父親を殺す場面があります。あれが全然対話してないし要らない。僕がTRPGのマスタリングであの話をそのままトレースしてマスターするとしたら絶対にあんな順番であの話を出したりはしません。やるなら、まず

・アレンが狼に襲われてハイタカに助けられる

場面から始めるでしょう。で、アレンが自暴自棄で生きる気力がない情景を描写する。
そうすると視聴者は

・なんでアレンは逃げてきたのか?
・なんであんな変わった身分の高そうな服装をしているのか?
・何故に生きる気力がないのか?

という疑問を持つと思います。そこで

・実はアレンは亡国の王子で逃げてきたのだ

という説明をすればいい。(でもって、あとでテルーの歌を聞いて父殺しを告白するところで冒頭の父を殺す場面を出すと)
こんな感じに、

・まずインパクトのある場面で問題提示して興味を引く
・それを観て視聴者が抱くであろう疑問(質問)を仮想的に“拾って”それに対する回答を返す

というやり取りを「対話」と本論では呼んでいます。そういうのがないんですよね。

 あとまあテンポがとにかく悪くて、アクションシーンなのかその間の落ち着いたシーンなのかさっぱりわからないとか^^;、状況を理解するのにこの1カットで十分なのに、べたべたに2カットも3カットも入っていてこの辺全部削っても全然問題ないし却ってテンポを悪くしてるだけだよな~……ってな感じにいわゆる『編集』というものが全然できていないですね。これだと「素人の作品」といわれてもしょうがないかなと思います。まあ、ジブリの映像ってどれもこれも素晴らしすぎるのでどれもこれも削り難くついつい入れちゃいたくなるのはわからないでもないですが、そこは心を鬼にしても削って欲しかったかなと。半分くらいごっそり削って、原作を知らないとさっぱりわからなさそうな「真の名とは何か?」「アースシーとはどんな世界なのか?」「ドラゴンとは何者なのか?」といった部分の説明に話を裂いた方が良かったのでは?でまあ、追加でそういうシーンを入れないとしても、別の監督が全く同じ映像素材を使って編集だけちゃんと構成しなおすだけでも十分面白い一級品のエンターテインメント作品になりうると思うのですがどうでしょう?

 それからこれは個人的な嗜好ですが、宮崎駿作品&ジブリ作品で昔っからずーっと気に要らない部分で、

・ストーリー上の一番重要な部分を映像として描かずに、間合いとテンポだけでさらっと流してごまかす

という特徴があるのですが、これだけテンポが悪いとその弱点部分が赤裸々になってしまうというか^^;。おかげで終盤のアレンとテルーが心を通わせる場面とか、アレンがクモに「お前は俺と同じだ」(「からくりサーカス」で全く同じパターンをやってましたよな)という、重要なシーンがメタメタになってました。やれやれ^^;

 何かもう映画を観てシーンが変わるたびに「このシーンは要らない」「これも要らない」「これはこっちに持ってった方が良いのでは」「ここはもっと早く切らないと」とか、いちいちそんなことを考えながら観させられた映画は初めてでした。疲れる^^;。体調が悪くて寝不足だったりしたら確実に気分が悪くなるか寝てますね。これ^^;。


 散々こき下ろしてしまいましたが^^;、テルーの歌のシーンだけは曲も良かったし間合いも良かったし、アレンがあそこで泣くのはそこまでに内面描写がうまくできてないのでやりすぎだしべた過ぎると思うのですが、それはさておきそこだけは非常に良かったと思います。宮崎駿作品だとテンポが良すぎてあんなべったりしっとりした表現は見れないので、そこのセンスだけは独自ですごく良いなあと思いました。

 あとまあ、あのゲド戦記の難解そうな内容をあれだけよく削ってシンプルにしたなあ、とはおもいます(まだまだ削り足らなかった、とも思いますけど)


 まあそんな感じで、今回はまだまだでしたがセンス的には好きなところもあるし、編集とかは勉強しつつやってるうちに上手くなると思うしで、今後に期待したいところですな。(今後があるかわかりませんが^^;)

いじょ
by namizusi | 2006-07-29 22:32 | ストーリーメディア


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