http://www.bk1.jp/product/03011803
読了。
オリンピックの体操で、難易度の高い技を組み込むと成功率が低くても高得点になるという風に採点方法が変わって、無難堅実重視な日本体操界があと一歩伸び悩んだという話がありますが、個人的には難易度の高いチャレンジをする方がチャレンジ精神を買って「良い」と思う方です。
TRPGのリプレイも無難なラインで収まってるだけのリプレイだったら大して見る気も起きないなと思うんですが、このリプレイはかなりアクロバチックなところに挑戦していて面白い内容でした。ただ、話がGMの希望でずいぶんスケールの大きなことになっていて(こういうのが「作家」をやる人がTRPGでGMをやるときの最大の悪癖だと思うのですが)、1冊で話が終わらずに「まだ続くのっ!?」ていう所が、今後も読むべきか悩ましいところですが。
1.寸評
1)話のスケールがセッションに対して大きすぎる
まあ、続きが出るかも知らんけど
2)ルール説明は端折り気味
まあ2本目のリプレイということでしょうがないかも。
戦闘中のユニットの動きは詳細で面白い。
3)エッジな所にチャレンジしてるのはとても良い
基本性能がボードゲームなのでPC間対立にした方が面白い、
という方向性へのチャレンジ
4)フラグ立て戦略ゲームのものすごい参考になる
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2.私的評価詳細
1.全体
○1-1.TRPGを全く知らない人が読者として想定されているかどうか。
△1-2.システムのプレイの仕方がそのシステムを知らない人がこのリプレイを参考にして実際にプレイできるくらいにわかりやすく紹介されているかどうか。
◎1-3.システムの世界観がそのシステムを知らない人にもわかりやすく紹介されているかどうか。
◎1-4.システムの限界がリプレイで見えてきているかどうか。
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2.マスタリング
◎2-1.滞りなくセッションを運営されているかどうか
◎2-2.システムの“売り”の部分をマスタリングの観点でセッションに導入しているかどうか
◎2-2-1.しかもそれが演出として上手く行っている
◎2-3.システムの限界を試してチャレンジしているかどうか
◎2-3-1.しかもそれが演出として上手く行っている
◎2-4.ルールをきちんと守っているかどうか
◎2-4-1.破る場合に破る理由をきちんと説明しているかどうか
◎2-5.プレイヤーのネタを拾っているかどうか
◎2-6.プレイヤーに対して公平に対処できているかどうか
◎2-6-1.ネタを拾う
◎2-6-2.出番の割合
◎2-6-3.あぶれたPLにGMからフォローを入れているかどうか
×?2-7.時間配分がきちんと出来ているかどうか
△2-7-1.時間配分とネタの濃度は合っているかどうか
話のスケールの割りにセッションの進捗が地を這う感じ(笑)。
○2-8.GMの想定外の出来事が起きているかどうか
◎2-8-1.きちんとフォローできているかどうか
◎2-8-2.しかもそれが劇的な演出にまで高められているかどうか
最初から多分岐想定してるし、どっちかっていうとどうなってもいいや的に構えているので想定外ってそもそもありえるのか謎。
◎2-9.NPCよりもPCが活躍しているかどうか
◎2-9-1.しかも、魅力的なNPCが引き立て役になっている
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3.プレイング
◎3-1.初心者もしくは逸脱する系のPLを1人以上入れているかどうか
◎3-2.ベテラン?が上手く初心者等をフォローできているかどうか
△3-3.プレイングの観点で、システムの限界的表現にチャレンジしているかどうか
そこまで突っ込む前に1冊分の話が終わっている(笑)。
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3.注目点
3-1.文章表現
・各章にPCとNPCとの手紙のやり取りを挿入
・アンジーのポエム集がメチャ受けた(爆笑)
この辺は、書き手さんが小説家なので、小説家の人だとこういう文章表現でセンスの良い所を見せてくれるのが面白いですね。
リプレイ表現もまだまだ開拓の余地があるのかも。
3-2.セッション構成
こんな感じになってました。
第1部
1)従来のアドベンチャーパート
2)密林探索ゲームパート(密林戦線)
3)バトルパート(スクエア戦闘)
第2部
1)アドベンチャーパート
2)バトルパート(スクエア戦闘)
なんか、密林探索ゲームを入れたからアドベンチャーパートが要らなくなる!?とかいう話だった気がするんですが、全然ぞんなことになってませんでした(爆笑)。広告に偽りありかもしれない、そうでないかもしれない。まあ、『密林戦線』というボードゲームが基本的に
・理由はさておき、各PC&EMは武装をほとんど失った状態から装備収集ゲームをする
という設定になっているので「何で最初に装備のない状態でそんなところに流されたのか?」を、物語的に説明する必要が発生する。
手っ取り早くやるならPL&GMで打ち合わせてこれこれこういう理由で雨に流されてそこに行き着いたからだ!と、説明すれば済むんですけど、本リプレイではその説明部分を丁寧にアドベンチャーパートで説明している、という構成になっています。まあ、どっちでもいいかと。キャラプレイをやりたい要望が高ければやっぱりアドベンチャーパートをどこかに入れればいいし、あくまでゲーム部分だけ遊びたいのであれば端折ればいいだけだし。
ただ、このリプレイのアドベンチャーパートって、キャラプレイもやってるんですけど、かなりハイレベルな、いかにもウォーゲーマーらしい戦略ゲームもやってるんですよね。
1)アドベンチャーパート
→初期戦況を決める戦略ゲーム
2)バトルパート
→雌雄を決する戦術ゲーム
という位置づけでプレイされていて、プレイしている人間もメンツが慣れているせいか嗅覚が冴え渡ってポイントポイントできっちり戦略的フラグを立てながらプレイしています。
その戦略ゲームが特に顕著なのは、一見地味な構成に見える第2部の方で、これって最終的に何だかうまく言って結局初期のPC2人組ずつの戦闘で落ち着いてますけど、本当は無数の戦闘バリエーションがあって、GMもそれを想定済みで対処しているように思われます。
まず最初に想定された初期戦力が
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1)Aチーム
・PC1
・PC2
2)Bチーム
・PC3
・PC4
3)村を占拠している急進派組織
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という三つ巴の構成で、Aチームが偵察で3)の急進派組織の存在を察知して、ちょうど通りかかった傭兵連中を取り込んで戦力増強
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1)Aチーム
・PC1
・PC2
+傭兵3人
2)Bチーム
・PC3
・PC4
3)村を占拠している急進派組織
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最終的にGMが急進派組織と傭兵を戦力相殺させて
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1)Aチーム
・PC1
・PC2
2)Bチーム
・PC3
・PC4
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という対決に持ち込んでます。
他にPC1~4が共闘状態になって、ヒロインが熱病になったので村の医者を救出に行くパターン
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1)A&Bチーム
・PC1
・PC2
・PC3
・PC4
2)村を占拠している急進派組織
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という対決もありえたと思いますし、Bチームが何かの過程で先に村にたどりついた場合
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1)Aチーム
・PC1
・PC2
+傭兵3人
2)Bチーム
+村を占拠している急進派組織
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という対決もあったと思います。
こっちの場合は結局、傭兵3人vs村を占拠している急進派組織を別のところでやりつつ並行でAチームvsBチームをやるかなあという感じですが。
でまあ、僕がよく言ってる物語を作るような部分もゲーム的に遊べるよ、というのはここでアドベンチャーパートでプレイされてるような戦略ゲームの部分を言ってます。で、戦闘しないセッションの場合は極論、人間関係戦略ゲームだけでも遊べるじゃん、と言いたいだけなんですけど、そういう精神はウォーゲームの中の戦略級ゲームをやってる人とか戦略的ボードゲームをやってる人にしか感覚が伝わらんのですかねえ。
あと、PC4がPC3をフォローしつつBチーム体制を強化して、設定を徐々に絡ませてくところも上手いね。
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3-3.PC情報とPL情報の分離
PC情報とPL情報の分離って、勝敗が決まってる状況だと茶番でやっててむずがゆくなってくるんですがw、上記のようにキャラプレイやキャラの掛け合いも戦略ゲームをしているという認識の上だと、
・ボードゲームで全体のボードが見えている
→PL情報
・しかし、PCは得られた情報や正確の特性上、こういう方向にしか動かせない。それをなるべく忠実にプレイするよう勤める
→PC情報
という感じにゲーム的にプレイできる(出来ている)と思います。やっぱりエンブリオマシンのスタッフってボードゲーマー気質の傾向が強いので、その辺よくわかってうまくプレイされてますな。こういうプレイは本当に参考になります。
以上、ずいぶん長くなりましたが、そんな感じの良いリプレイでした。
続きが出てくるのをぜひ期待したいですのう。
ただ、そこから続けるってなかなか難しそうですが。手腕に期待する方向で(笑)。
んでわ